商船高専に専攻科設置を要望

 全国の国公私立高等専門学校のうち多くの学校においては、 教育の高度化を目指し、 本科の5年一貫教育 (商船学科は5年6月) の上に、 専攻科としてさらに2年間の教育課程を設けています。
 これら専攻科は、 本科の各専門学科に1対1に対応、 あるいは2以上の専門学科を統合する形で、 コースが置かれており、 一つの高専に複数のコースが置かれているのが通常です。
 専攻科修了生には、 独立行政法人大学評価・学位授与機構の審査を経て学士の資格が与えられるなど、 名実共に大学卒に相当する、 高度な教育課程となっています。
 国立の55高専の中では、 16年度から学生の受け入れが始まる沖縄高専と、 5つの商船高専を除く49高専に、 既に専攻科が設置されており、 入学定員の総計は、 884人に達しています。 5商船高専でも、 17年度概算要求において専攻科設置を要求すべく、 準備を進めてきましたが、 商船学科をベースとする専攻科については、 その設置理由等に共通部分が多いため、 統一的な設置要望書をとりまとめましたので、 ここに紹介させていただきました。
                                               5商船高専校長会 


1.商船系専攻科の教育目標

 商船学科は我が国の海運界を支える海技士 (船舶職員) としての実践的技術者を育成・輩出し、 卒業生は海運業界の第一線の技術者として、 国の内外で活躍している。
 しかし、 近年の日本商船隊は、 海運市場のグローバル化と国際競争の激化などにより、 外国人船員により運航される便宜置籍船が多くを占めるものとなった。 この便宜置籍船で構成される日本商船隊を陸上から運航管理するため、 より高度な幅広い能力を有する実践的技術者の育成が商船学科に求められるものとなった。
 商船学科は、 学生や保護者ならびに地域からの強い要請はもとより、 長かった苦境から抜け出て好況に転じた海運界からの新たな要請のもとに、 商船系専攻科の設置を計画するものである。 商船系専攻科においては、 より幅広い視野を持ち、 変化の激しい国際社会、 変革が進む海上輸送及び海事技術分野において活躍できる専門性と創造性を有する技術者の育成を目指すものである。
 本科では船舶運航技術、 関連する工学と素養等について、 船舶に乗船する運航技術者、 即ち、 海技士の視点から学んでいる。 これに対し、 商船系専攻科は、 1年間の長期航海実習を含む海技技術者としての教育と資格を得た学生が、 陸上と船舶を繋ぐ視点および陸上の視点から、 船舶運航技術等について深く体系的に学ぶものである。 さらに、 海、 陸と空の国際間輸送サービスを一元化した 「国際複合一貫輸送」 等の新たな物流・輸送システムや、 新形式プラント等の設計、 開発などの、 海事分野におけるシステム創生能力の形成を目指すものである。
 商船系専攻科の教育目標は以下の通りである。

海事分野における優れた専門性と豊かな創造性を有する技術者の育成
1. 国際・国内海上輸送における運航管理を担える技術者の育成
2. 海陸一体の船舶運航管理システムの運用並びに構築を可能とする高度な技術者の育成
3. 国際一貫輸送を支える国際性豊かな人材の育成
4. 高度化・多様化する海上輸送技術及び海事関連技術を理解し、 自己開発できる創造的技術者の育成

2.商船系専攻科の必要性

 前述の教育目標を掲げる商船系専攻科の設置を計画するに至った背景、 要請等の必要性について、(1) 日本人船員の動向、(2) 日本海運の現況、(3) 変革期を迎えた海事技術、 (4)地域 (海事) 社会との密接な結びつき、 (5)専攻科ニーズ調査の 5 項目の視点から検討した内容について記述する。

(1) 日本人船員の動向
◆ 陸上からの船舶運航管理を担う日本人船員
 現在の日本商船隊は2000隻弱であり、 その6%程度が日本籍船、 他は便宜置籍船である。 この日本商船隊の9割は外国人により運航され、 陸上勤務の日本人船員が外国人の乗り込んだ日本商船隊の船舶運航管理を行っているのが現状である。
 日本商船隊の乗船船員が外国人に移行し、 日本人船員の役割は、 陸上からの船舶運航管理に重点が置かれるようになった。 そして、 平成10年7月から、 品質管理を船舶運航の安全確保に適用した国際安全管理コード (ISM コード) が開始され、 海陸一体の運航管理システムが国際的に強制化されるに至り、 日本人船員による陸上からの日本商船隊の運航管理は責任の重さとともに、 その重要性がさらに高まっている。 現在の日本人船員は、 単なる船舶運航要員にとどまらず、 外国人船員の指導に当たるとともに、 陸上での船舶管理部門を行う役割を担っている。

◆ 船舶運航管理を担う人材の継続的な需要
 平成14年の主要外航海運会社 (24 社) の年齢別日本人船員数を見ると、 航海士及び機関士である職員において、 45歳を超える中高年船員が占める割合は約6割と異常に高く、 今後10年間で彼らは退職するのである。 日本商船隊を形成する海運企業は船舶運航管理を担う人的資源の確保に努めざるを得ないことが明らかである。 日本商船隊を維持する為には、 船舶運航管理を担う人材の確保が不可欠であり、 強い需要が見込まれる。

船舶運航管理者としてのニーズ

 現在の海事技術者 (日本人船員) には、 単なる船舶運航要員にとどまらず、 陸上での船舶運航管理を担うことが求められており、 日本商船隊を維持する為には、 船舶運航管理を担う人材の確保が不可欠であり、 強い需要が見込まれる。

(2) 日本海運の現況
◆ さらに高まる日本海運の重要性
 日本の衣、 食、 住、 及び、 パワーの全てを運び、 日本の産業活動を支えているのが日本海運である。 食料自給率の低下とエネルギー消費量の増大が進んだ現在の日本において、 輸出入の輸送活動を担っているのが日本海運の外航部門であり、 日本の輸入貨物の99.7% (重量ベース) を運んでいる。 また、 日本国内の貨物輸送の42% (トンキロベース) を担っているのが、 日本海運の内航部門であり、 トラック輸送を環境に優しい輸送機関に振り替える 「モーダルシフト」 のエースとしても注目されている。 外航・内航を問わず日本海運の重要性はさらに高まっているのが現状である。

◆ 日本海運の好況の継続
 平成16年3月期の大手外航海運会社 (3社) は史上最高の売上高と過去最高の経常利益を達成する見通しを示した。 中国に関連する海運需要の増大とそれに伴う運賃高騰が主因となった業績の上昇であるが、 間接的で大きな要因として、 日本の海運企業が継続して努力してきたリストラ等の合理化の効果が上げられている。 中国を軸とした旺盛な輸出入需要が継続することが見込まれており、 長年の合理化により、 体力と競争力が強化された日本海運の好況は維持されると推測されている。

◆ 国際複合一貫輸送を目指す海運企業
 日本海運は合理化の努力のみならず、 新たな質の高い輸送サービスの創出なども実施している。 海運企業が、 従来から行ってきた港から港までの船舶による輸送サービスだけでなく、 国を越え、 陸と空をも含んだ一連の輸送サービスである国際複合一貫輸送サービスの提供を始めている。 日本海運が長年培ってきたグローバルネットワークと共同運航サービス (アライアンス) により実現したものである。 海運を起点とし、 保有するグローバルネットワークに基づく新たな質の高い国際輸送需要の創出等の、 日本海運の競争力向上が確実に進められている。

継続的な好況が予測される日本海運界のニーズ

 日本の生活と産業を支える日本海運の重要性は外航・内航を問わずさらに高まっている。 国際複合一貫輸送等の競争力向上が確実に進められ、 日本海運は空前の好況を示し、 継続することが予測されている。

(3) 変革期を迎え、 革新が試みられている海事技術
 日本海運において、 大型化・専用化・高速化、 省力化・機器システムの高知能化、 通信技術の進展による海洋上の船舶運航の支援と管理などの海事技術の変革が進んでいる。 この変革は、 海事技術者の対象となる技術分野を、 乗船して船舶を運航することから、 陸上からの船舶運航の支援、 管理及び関連システムの開発に拡大した。 これからの海事技術者は、 支援機能強化とシステム化が進められた海陸一体の船舶運航技術に対応できる人材でなければならないと考える。
 この変革の動きは極めて高速な船舶、 新しいコンセプトの船舶、 海上交通の場である海域の高度利用等の、 船舶運航の効率と安全の向上を求めた海事技術の革新を生み出し、 結果として時速 90km の高速輸送や、 競争力の高い内航輸送などの新たな海上輸送サービスの創出に繋がっている。
 これからの海事技術者には、 これらの海事における革新的な技術を理解し、 自己開発できる高度で創造的な能力が必要と考える。

高度な海事技術者としてのニーズ

 現在の海事技術の進展動向から、 これからの海事技術者は、 海陸一体の船舶運航管理システムに対応できる能力が求められ、 さらに、 将来の実現が予測される多くの革新的な技術について、 理解し、 自己開発できる高度で創造的な能力も必要とされている。

(4) 地域 (海事) 社会との密接な結びつき
 各商船高専は所在地の市、 県等の各地域経済と密接な結びつきや、 多くの産官学技術交流等の連携事業を実施しており、 特に、 瀬戸内海西部、 瀬戸内海東部、 阪神、 中京、 日本海等の所在地周辺の海事社会においては、 人材の供給のみならず、 海事技術の核として機能してきた実績がある。 これらの実績などに基づいた地域 (海事) 社会からの商船系専攻科への期待は大きく、 多くの地方自治体からの専攻科設置に関する要望書が届けられている。

(5) 専攻科ニーズ調査
 各商船高専において、 在校生、 保護者、 卒業生及び関連する企業を対象として実施された専攻科設置に関するアンケート結果を次表に示す。
 在校生、 保護者、 卒業生及び企業の多くが商船系を含む専攻科の設置を希望しており、 専攻科のニーズの高さを示しているものと判断される。
ア ン ケ ー ト 項 目 五商船高専の平均
在校生の専攻科設置希望 65%
保護者の専攻科設置希望 91%
卒業生の専攻科設置希望 67%
企業から見た専攻科設置の必要性 82%

  ■商船系専攻科の必要性に関するまとめ

 以上の商船系専攻科の必要性に関して検討した結果、 船舶運航管理の海陸一体化などの変革期を迎えた海事技術に柔軟に対応できる創造的な海事技術者への海運界のニーズ、 地域を代表する地方自治体からの要請、 学生、 保護者、 卒業生及び会社からの高い設置希望などがあり、 さらに、 国際複合一貫輸送化等を進めた日本海運企業の好況の継続が予測されていることなどから、 商船高等専門学校に商船系専攻科を設置することが是非とも必要である。