新卒内航要員 (海上技術短期大学校・海上技術学校の卒業生) の
                       即戦力養成訓練に関する乗船調査

                                                          
                                       全船協理事 岩 江 成 徳  
                                    (山友汽船椛纒\取締役副社長)

1. 内航船員不足の危惧

 近年、 内航船員は外航及び漁船からの内航への転出で補うことが出来たが、 新卒者の採用を控えた結果、高齢化が進み、 各報告書などのデータのとおり平均年齢50歳台の経験者を主体として運航しているのが現状である。 高齢者は内航船のみを職域にしていると思われる節があり、 (外航船が極小数のため) 且つ現状に甘んじているのか一部の大手内航船会社船員を除き、 数社を渡り歩く船員も多くその技術には問題があると思う。
 最近では新卒の採用等による技術の伝承論は机上の空論となっている感があり、 間もなく船員不足の大変な時代がくるように思える。 SECOJ及び内航総連合においても即戦力のある新卒をと種々援助しているようであるが、 現状の内航海運会杜では、 最少限の人員で運航しており、 船内でのOJTは勿論、 自分の職務遂行でさえ一杯なのに新卒者を教育することは到底無理であろう。 また採用しても一人前に育てるのに10年も要する職務故か船員費を最小に押さえている現状では一人たりとも余分に乗せることはできず・各社その場限りの要員を配乗し急場を凌いでいる。
 海上に職を求め、 希望を持って商船大学・商船高専・海上技術短期大学校などに入学しても卒業後の就職も十分でないのに、 「勉強せよ。 実習を真面目にやれ。」 と言っても、 子供たちはそんな要求にこたえる程馬鹿ではないと思うし、 船で何年か一寸遊んで、 田舎に帰れば百姓で生活もできるし、 孫も墓守もと考えている親も多いようである。
 即戦力がないからといって雇用しない、 雇用が無いのに一生懸命になれぬ、 と鼬ごっこを繰り返している。 しかし、 筆者がここ数年で10名以上の新卒船員を直接見てきた経験から、 OJTで十分に将来海上現場に役立つ若者がいると断言できる。
 学校及び練習船における教育方法で一寸した工夫があれば、 実技を身に付けた学生・生徒が育っていくのではないかと愚考していた矢先、 独立行政法人“航海訓練所”より標記の調査に一役買うことになった。

2. 即戦力養成訓練に関する調査の目的と調査対象等

 弊社の現役船長及び機関長が、 航海訓練所練習船での日々の訓練の実態 (船内生活を含む。) を把握しつつ練習船教官との意見交換等を頻繁に行い、 多様な内航業界の実態を踏まえた助言を教官に対して行うことによって、 より速やかに、 かつ効果的に内航船員養成における即戦力化に関する訓練の実施を図るとともに、 訓練計画の策定等に資することを目的とする調査であった。
 平成15年10月から翌年1月までの間に2回の調査を実施した。 調査を2期に分けた趣旨は、 訓練初期と終期すなわち訓練の進捗度に応じて適切に助言することであった。 その意味では同一実習生を対象とすべきであるが、 速やかに調査し、 その結果を速やかに訓練へ反映することが優先され、 次表に示す調査期間、 調査対象船及び調査対象実習生となった。

  調査期間 調査対象船 調査対象実習生
第1回目調査 平成15年10月1日〜
平成15年11月14日
銀河丸 海上技術短期大学校(専修科)2年生53名
第2回目調査 平成16年1月5日〜
平成16年1月27日
同上 海上技術学校(本科)3年生127名

 上表に示した専修科は、 2年間の教育制度において2年次の年度当初から9ヶ月間連続して練習船に乗船して訓練を受けることとなっている。この9ヶ月の訓練は、3ヶ月ごとに船種の異なる練習船に乗り変わって実施され、 調査期間は第3船目、 すなわち訓練の最終段階であった。
 一方本科は3年間の教育制度において、 3年次の第4四半期に3ケ月間練習船に乗船して訓練を受けることとなっている。 本科卒業後、 引き続き乗船実習科に進学する制度が整っているが、 今回の調査期間は、 初めて練習船に乗船して間もない時期であった。
 調査員の船長・機関長は、 把握した実態について毎夕刻、 船側とミーティングを開いて意見交換し、 速やかに改善すべきと判断された事項はできる限り翌日の訓練に反映された、 そのミーティングには本船の船長、 機関長、 航海・機関の各専任教官、 航海士、 機関士、 甲板部教官 (甲板長及び甲板次長等) 及び機関部教官 (操機長・操機次長等) が可能な限り参加し、 航・機別に行われた。 また、 把握した実態を毎日記録した。
 さらに、 1週間毎に航・機別及び航・機合同で意見交換を行い、 過去1週間の調査のまとめとして記録を作成した。 今回の調査を他の練習船においても速やかに活用するため、 毎週のまとめは、 その都度航海訓練所に電子ファイルで送られた。
 これら毎日の記録と毎週の記録等を基に調査報告書を作成し、 航海訓練所に提出した。 その抜粋を航海訓練所の許可を得て末尾に示す。

3. 調査に対する筆者の思い

 内航船船長・機関長経験者が練習船での訓練に関する調査をしながら、 船内で学生・生徒に内航の実務と現状を話して聞かせるような触れ合いをすれば、 より効果も上がると思い乗船調査に協力させていただく事とした。
 即ち、 戦力があると判明すれば内航船社も若返りのため採用するかもしれない。 しかし、 現況の内航海運不景気のためSECOJの援助があっても採用しない状況が続けば、 本人も厭になって海上を去る、 の繰り返しとなる。 そうなっては商船系大学、 商船高専、 海技大学校、 海上技術短期大学校、 海上技術学校ともに船員を養成する意味が無くなるし、 海上技術の伝承も無くなる。
 海上技術者による船舶管理をするにも養成に長年掛かり且つ日本籍外航船のみの管理であれば数十名で足りるであろうし、 間に合わぬ時、 外航日本籍船は極少数であるから外国人でも十分であろう。
 上記を愚考するに将来日本人船員を必要とする商船は内航船が大半であるが (外国人に変わると陸上側の語学の問題が生じて困ると言う。) 要員が不足し技術も低いのなら陸上に語学堪能者を準備し、 (問題は多々あると思うが) 安い比国人に乗り変えることも考えるであろう。
 しかし、 本人にとって見れば若い内に練習船で人間教育を受けておれば、 海上職域がなく仮に海技基礎知識が直接役に立たない進路に進むことになったとしても、 学問 (練習船・全寮制の学校などを指し、 知識教授の学校と区分けしたい) をしておいたことにより練習船における横の繋がりで将来きっと社会的に役立つ人間になるであろう。
 反面、 海上においては水産高校専攻科卒業生即ち練習船修了者は体で実務を覚えてくるので内航船では重宝がられつつあるのも事実である。
 このギャップを如何にするか。 厳しい事実を少しでも和らげるには、 新卒者を受け入れる船社の責任として対応する一方、 学校・練習船教育の段階で実技習得をお願いすることによって即戦力問題を前進させなければならない。 そうでなければ若人本人が可哀想であるとの観点から、 調査依頼内容とは別に次の事項について意見を持ち帰るよう、 乗船するに先立って調査員の船長・機関長に指示した。
 併せて、 学生・生徒 (自分の子供と考えて) の実習中の生活態度・実技習得状況などを良く見ながら、 それら指示事項を踏まえて訓練に関する単刀直入な意見を見出し、 練習船の教官にアドバイスすることが今回の調査の趣旨に沿うことになるであろうことも説明した。
1) その実習生を内航船で受け入れることができるか。
2) 同じ船のクリューとして彼らが乗船したとき、 教育していくことができるか。
3) または、 高齢者でも良いから経験者をと思わざるを得ないのか。
4) はたまた、 何処に問題があるのか、 如何にしたら良いのか。
5) 船長・機関長としてどう教育して貰いたいのか。
6) 受け入れる業界側に間違いがあるのか、 ないのか (イメージ的で良い)。
 これらは弊社の現場教育の一助にもなるし、 何よりも卒業、 就職を控えた海上技術短期大学校及び海上技術学校の学生及び生徒本人自身が有効な長期実習を通じて内航の実状を理解し、 内航に必要な実技を習得することについて、 少しでも将来に向かって役立てばと考えた次第である。

4. 調査を終えて

 あくまでも船長・機関長の主観であることをお断りした上で、 今回の調査を終えて彼らが持ち帰った意見の総括をご参考として次に紹介する。
A) 将来海上職場で有能と思われる若者が確実にいること。
B) 若者の考え方、 生活態度、 将来の職務意識について個人差が大きいこと。 (特に訓練の初期段階において)
C) 航海科志望者が多いこと。
D) 中には、 注意を受けても聞かぬ実習生がいること。
E) 教官は想像以上に苦労され且つ真剣に取り組まれている事実に驚いたこと。
 最後に、 此の度の航海訓練所の調査実施は、 即戦力養成訓練の観点にとどまらず今後の船員問題に関連しても誠に時機を得たもので非常に有効であったこと及び航海訓練所担当官及び、 船長、 機関長他乗組員一同にご迷惑をおかけした点をお詫びし、 ご協力ご支援に感謝の意を紙面で申し上げ締めくくりとしたい。
                                                 以上


<調査報告書の抜粋>

(航海訓練所の許可を得て掲載)

○多人数に対する訓練
 多人数の実習生に対する訓練の難しさが痛切に感じられた。 訓練に対する目的意識、 基礎的知識レベルなど、 実習生毎に大きく異なることがその難しさの主な要因となっている。
 できる限り機会を捉えるよう努めた実習生との会話を通じて、 入学の動機あるいは就職に関する厳しい状況も目的意識などに影響していることが伺えた。

○学生・生徒の自主性等を引き出すための工夫
 実習生の目的意識を高め、 積極性、 自主性を引き出すための様々な工夫が試みられた。 実習生に対して一方的に説明することが多いとの教官側の反省から、 実習生の理解度を確認することも考慮した実習生との対話形式の説明をできる限り取り入れたこと、 あるいは実習生全員に対して一括して行っていた講義を少人数によるグループ実習形式に変え、 他の実習内容と組み合わせたことなどが挙げられる。 後者の例は、 グルーブ毎の当該講義内容についての割り当て時間は少なくなったが、 積極性、 自主性を引き出す効果が現れ、 時間の減少分を十分に補う効果があると感じた。

〇実技実習と実習生の志向性
 ほとんどの実習生が実技実習に積極的に取り組む姿勢を示す。 教室で講義 (現揚実習の事前説明が主) を受けている態度と違い俄然活気づいてくる。
 ある整備作業に参加した専修科実習生の中には、 ああー練習船に乗っているのだとの感想をもらす者もいた。 また、 教官側も、 実習終了後のミーティング (反省会) で改善点を見出しそれを次の実習に活かしているため2回3回と回を重ねるごとに内容が充実し、 その熱意が実習生に伝わり真剣に取り組むようになり理解度も深まっていった。
 しかし、 自主性に関する個人差は大きく、 実習の目的を明確に理解して取り組む者がいる一方、 言われるがまま、 目的を理解しようとしない者も見受けられた。
 実習生が航海・機関いずれの科を志向しているかによって自主性に差が生じることを実習生との会話を通じて確認できた。 併せて機関に対する志向性を持っている実習生の数が航海に比べてかなり低いことも確認できた。
 そのため、 機関科に対する興味を引き出すことについてしばしば教官との意見交換を行い、 例えば機関士としての生甲斐・成功談・失敗談などをこれまで以上に折に触れて紹介するよう助言した。 実技実習の場面のみではなく、 講義あるいは定期的に開催される実習生と教官との懇談会等においても、 その助言を踏まえた対応がなされ、 訓練最終段階にあった専修科実習生の中には明らかに機関を志向する者が現れてきたのは好ましいことであった。

○実技実習の繰り返し
 設備・機器の取扱いについて、 安全上やむを得ないところであるが、 肝心なところで乗組員が手を出してしまう実態があったため、 実習生が主体的にできる限り多くの回数操作するよう工夫すべきと指摘した。 意見交換を行い、 教官側での検討がなされた結果、 乗組員が一歩退いて、 実習生が自ら操作するよう対応が図られた。
 これは安全が関わるため、 実習生自らが設備・機器の機能、 操作の要点・注意点・操作指示する者の指示の声と動作、 操作する者の復唱と報告のあり方などを事前に予習・準備することが必要となる。
 それらを専修科実習生に対して実施し・事後に反省・記録させることを試みた結果、 積極性・自主性が確実に現れ、 次回は反省点を踏まえてどのようにしたいかを明確に述べる者も出てきた。 操作に携わらなかった実習生からは、 操作に携わった実習生の動作等に関する評価の声が聞こえるようになった。
 一方、 本科実習生については、 訓練の初期段階であり、 未だそこまでは至っていない状況であったが、 今後同様な積極性と自主性を引き出すべく、 段階的に訓練を進めているところであった。

〇総員退船部署操練
 進歩の度合いを高め、 集中力や積極性を欠く者がいる状況を改善するため、 操練に加えて実習生・航海土及び甲板部乗組員による救命艇の降下揚収訓練を行う試みが専修科実習生に対して開始されていた。
 実習生の1個班を作業グループと見学グループに分け、 作業側に航海士1名及び甲板部員2名が付き、 航海士の指示により、 作業グループが行動した。 甲板部員は一歩退いて見守りながら安全を確認し、 見学グループは作業グループの動作、 復唱及び報告等に注目し、 所要時問も記録しながら評価した。
 この実習は各自のやる気を良く引き出しており、 各グループとも次はもっと上手くやってやるという様が見て取れ、 実際に2回目は前回の反省が十分活かされスムーズに行なっていた。
 内航では救命艇を装備していない船も多い。 しかし、 適切な指示、 復唱、 安全な動作、 動作後の報告・速やかに安全確認すべきポイントの把握、 装備の整備状況の確認など総合的に実習生の能力を引き出し、 技能を身に付けさせることができるこの訓練を継続するよう助言した。
 また、 小グループで何度も繰り返すため、 航海士、 甲板部にかなりの負担が掛かる状況が生ずるけれども、 このような訓練を他の実習にも応用できないか提案した。

O船首及び船尾の配置での出入港作業訓練
 ウインドラス等の操作について、 実習生の理解と経験が不足しているため肝心なところを乗組員が行なっているのは安全上やむを得ないが、 できる限り実習生自らの手で行なわせる方法を検討するよう助言した。
 その結果、 作業指揮、 機器操作担当及び連絡担当の役割を予め決めて、 指差し確認、 大声での指示と復唱を徹底させるべく事前にグループでの予習を行なって実際の揚投錨作業に臨ませたところ、 動作や声の大きさなど確実性が高くなり、 実習生同志での反省や批評も聞かれるようになった。 グループ毎の競争心も伺えた。
 これらは、 訓練最終段階での例であるが、 初期段階では部署配置の際の服装の徹底など基本的な指導から始まっている、 強風の中で大きな声で報告ができるなど、 指導の効果が現れ始めている段階であった。

○離着岸作業と着岸中の作業
 練習船では月2〜3回程度入港し、 離着岸作業訓練を経験させ、 着岸中は訓練及び実習生と乗組員の上陸を実施している。 一方、 内航船では早朝に入港して直ちに荷役、 それを終えてタ刻出港することが多い。
 荷役に伴って発生する作業あるいは考慮すべき事項、 機関部が短時間の着岸中に機関整備やバンカリングを行うこと。 機関部も荷役に携わること、 さらには食料の買出し等を行うこと等、 内航の実態を実習生が認識する必要がある。
 しかし、 この内航船の実態と同等のことを練習船に求めることは、 荷役、 要求されている訓練内容の多さ、 あるいは多人数に対する訓練等の観点から無理がある。
 したがって、 これらの経験は、 最近設けられたインターンシップ制度あるいは夏休みにおける内航船体験乗船制度を活用・活性化することにより期待したい。

○瀬戸内海航行訓練
 専修科実習生に対する瀬戸内海の東航及び西航の訓練を調査した。
    (略)
 次の西航に際しては、 事前学習に際して教官側が予め準備していた視聴覚教材を活用するとともに、 実習生をグループに分けて狭水道ごとに航海計間を立案させ、 船長のチェックを受けた上でその計画に基づき実際に航行した。
 その計画立案は、 実務に不可欠な海図の準備から水路書誌の調査まで含まれており、 実習生はそれらに真剣に取り組み、 その姿は活き活きしていた。 さらに、 物標等を予め正確に記億させるため、 白地図を各人に配布し繰り返し唱和した上で記入させること等により、 メモや教材資料に頼らずに狭水道航行訓練に臨ませる工夫が図られた。 それらの結果、 実際の各狭水道航行に臨む実習生の態度、 積極性等大いに変化が現れ、 また、 事前に学習した物標等も良く覚えていた。
 ところで、 一部の定期船を除いて大多数の内航船は瀬戸内海を頻繁に航海する。 内航船の場合、 一般的に昼問は荷役主体で夜間の航海が多くなり、 瀬戸内海も夜間航海がはるかに多い。 夜間も含めた瀬戸内海航行を経験させる必要性を感じている。
 いろいろの面でそれが無理で体験できないとなれば、 ビデオやシミュレーション等を用い、 漁船の灯火や陸上の灯りの中で同航船や反航船の灯火を探していくことの難しさ、 狭水道における夜間と日中との距離感の違いなどを理解させるための教育を期待したい。

○甲板部整備作業
 錆打ちや塗装作業など、 甲板部関係の整備作業に対する実習生の取り組みは教室での説明等に対するものと大きく異なり、 ほとんどの実習生に活気が感じられた。
 彼らが自ら体を動かす訓練に意欲を持っている一方、 教室での説明等の重要性は何度も指摘されて認識はしているが、 説明内容についていくことができなくなる状況が生じていることを実習生との会話を通じて認識した、
 積極的とは言っても、 指示されたままに作業し、 その意義を理解していない者、 割り当てられた作業が済んだ後は漫然としている者が見受けられるなどの実態があり、 作業の準備から手仕舞いまで一貫して実習生が理解し、 自主的に取り組むことについて意見交換を行い、 次の対応が図られた。
 作業の準備や手仕舞いは甲板部が主として行ってきており、 それらに参加する実習生は班の用具係など一部の者であったものを、 作業担当班の全員が、 用具の準備、 作業環境の整備、 実際の作業、 作業後の手仕舞いを一貫して行う方法に改めた。
 これにより些細なことであるが用具の格納場所など船内の隅々の配置まで実習生が把握できるようになった。 作業の一貫性の観点から今後もこのような取り組みが進められることを望みたい。
 ロ―プワークは実務上できることが当然と期待されており、 意見交換の上、 そのことを一層徹底して行うことになった。
 アイスプライスも、 即戦力の一環として確実に身に付けさせるべきと指摘し、 合成繊維索に限らずワイヤーロープのスプライス、 さらにはかなり太い係留索のスプライスまで繰り返し経験させることが試みられた。 かなりの労力と時間を要するものであるが、 部員教官の熱意と指導の適切さにより、 かなりの数の実習生が自信を持つようになっていった。
 夜間の自由時間にグループで復習している姿も見掛けた。なお、時間的制約から他の訓練内容と組合せ、分団で行う工夫をしているが、指導を徹底させるためには指導者の確保が不可欠であり、 可能なら増員を願う気持ちが生じてきた。
 これらは専修科の例であるが、 本科についても乗船当初からこの試みを継続することとしている。 調査時点では3本撚り雑索のスプライス入れに取組ませている。 実習生は比較的スムーズにこれを行っており、 学校で指導が良くなされていることを感じた。

○暖冷機訓練
 調査開始当初、 次の状況が見られた。
・バルブの操作に気を取られ、 作業全体の流れを把握できていない。
・配管を十分には理解しておらず、 バルブ操作にとまどいが見られる。
・作業の流れの本質を理解せず、 丸暗記しようとしている。
・ポンプ起動時の運転状態、 パイプからの油漏れ、 油のレベル及びレベルゲージの機能の確認が疎かになっている。
 これらの改善を図るため、 意見交換を踏まえて設定された五つの基本を踏まえて、 次の対応が取られた。
・現場に即した注意事項の要点を実例を示して説明する。
・実習生を指示する者と操作する者に分けてそれぞれの役割を割り振る。
・教えたから大丈夫と思わずに重要なことは何度でも繰り返し説明する。
・操作する者は指示を待たず、 「次は○○を実施します」 と報告をさせるようにする。
 このような対応により、 自発的に予習し、 作業を理解した上で暖冷機訓練に取り組み、 確実に自信を持って行動する実習生が多くなった。 前の船からこの訓練を繰り返してきているが、 そのことと教官及び機関部部員が熱意を込め、 一体となって指導した成果と評したい。
 訓練段階初期の本科実習生については、 暖冷機オリエンテーリングを行って機関室内の機器配置などを把握させる訓練から開始した。 実習生数が専修科の2倍以上であることを考慮し、 専修科の場合に工夫した指導法を多少変更して柔軟な指導に当たっていた。 初期であるから実習生の理解度も積極性もまだまだであるが、 彼らが自発的に取り組むよう、 機関部のおもしろさをアピールしながら今後も引き続き指導の徹底をお願いしたい。

○主機構造・配管調査訓練
 教室で主機の構造と配管の説明を行った上、 現場でそれぞれを説明し、 配管の調査を行わせている。 教室での実習生の居眠りを防止するため、 それらの説明に使用する配布プリントの工夫 (要点を空白にしておき、 実習生に書き込ませるなど)、 視聴覚教材を作製して視覚に訴える工夫・前回説明した内容に関する小テストの実施、 実際に発生したトラブルやそのときの具体的対処法などの経験談を交えた説明、 説明の合間の休憩、 ときには気分転換を図る体操など様々な対策が講じられ、 実習生を飽きさせない効果が出ている。
 また・現場で経験談を聞かせながら対話形式の説明・調査が行われ、 具体的注意事項も丁寧に与えられており、 実習生の取組姿勢に積極性や自主性が現れてきた。
 配管については、 油漏れが生じたときの対処法・漏れの有無のチェツクなど当直者としての心構えなどの説明も加えられるようになった。 配管を理解しているか否かの確認のため、 こまめに試験を行う必要性を指摘したが、 実習生が消化不良を起こす可能性を考慮し、 模擬解答や質疑応答集を用意することになった。
 配管調査のまとめとして開かれた研究発表会は、 質疑応答しながら実習生に助言を与え、 考える時間を取りながらパイプラインを把握するよう進められた。 乗組員の経験談まで紹介されたこの発表会は密度が濃く、 大変役に立つものであった。
 この発表会に向けた準備の中で実習生の図面を見る能力が向上したが、 今後彼らが当直中に図面を見る習慣を身に付けるよう期待したい。

○機関部整備作業
 機関関係の整備作業は2〜3人程度の実習生グループに機関部員教官が付いて行っているが、 対話形式の説明はこの整備作業にも取り入れられており、 大変有効であった。
 部員教官による指導は教科書では学べない経験に基づくツボにはまったものであり、 実習生にとって貴重な経験である。
 機器の開放整備作業に立ち会った際、 実習生は経験談も含めた懇切丁寧な部員教官の指導を熱心に聞き、 質問しながら整備作業を行なっており、 今後機関に対する興味を持ちそうな期待感を持った。
 主機排気弁交換作業の場含、 これにあたった実習生は教官の呼びかけで勉強会を開き、 取扱説明書を読むなど事前準備が実に良くできており、 実際に作業に当たった部員教官の指導もすばらしかった。
(略)

〇再指導の徹底
 節目に行う中間試験や期末試験の他、 教室での講義や実技実習の後にかなり頻繁に小テストを行って知識習得状況を確認し、 得点の低い者には再指導の徹底を図っていた。 深夜にマンツーマンで再指導を行っている姿を目にすることもあった。
 中には再指導を受けてもなかなか満足する状況まで達しない者もいたが、 彼らを見捨てずに努力を継続するよう要請した。
(略)
 技能の習得については、 実習生たちの自由時間に彼らが復習できるよう用具などを揃え、 彼らの求めに応じられるよう体制が整えられた。

○実社会への認識
 実社会に間もなく出ていくということに対する実習生の認識の低さを感じることがあった。 希に調査側が内航船の実態を話し、 だからこのように改めるべきと具体的注意を与えても全く反応を示さない者もいた。
 認識の低さは、 訓練を行う場合にも現れることであり、 認識が高まれば、 自ずと訓練への取組姿勢に変化が出ることを期待できる。 様々な機会を捉えて彼らに内航の実態を理解させる努力が必要であり、 その観点で調査期問中、 できる限り実習生と会話する機会を作り、 内航の実態を話すよう努めた。
 食事のことを実習生から質問されたとき、 「練習船では賄いの人が専従で食事を作り、 おいしい食事をいただけて幸せだ。 内航の現場、 特に小型船では買い出しから調理まで自ら行うこともある。」 と話して聞かせたのは最も身近な例であった。
 既に練習船乗組員に対する内航船での研修が開始されているが、 上記と同様な観点でその継続実施を望みたい。
 また、 内航業界における若者の定着率の低さが問題となつており、 その要因としてミスマッチが指摘されているが、 実習生の実社会に対する認識を深めることができれば、 その問題の解決につながることが期待できる。

○訓練カリキュラムと実技実習
 実習生が確実に内航船の運行に不可欠な技能を身に付けることができるよう、 機器に触れ、 操作する回数をできる限り多くするよう助言し、 教官側は調査側との毎日の意見交換、 検討を踏まえて様々な工夫や試みを行った。
 それら工夫や試みの効果を確かめるために実技実習に立ち会ったとき、 訓練内容を次の段階まで深めて経験させて欲しい、 あるいは操作する時間をもう少し実習生に与えて欲しいと感じ、 そのことを指摘した。 多人数の一人一人に対しそれを実行するためにはかなりの時間と教官数の確保を要し、 一方では他にも豊富な訓練の実施が求められている実情が明らかとなり、 それら両立の難しさと教官側の苦労を強く認識した。
(略)
 学校でも練習船と同様に大変豊富な内容のカリキュラムに基づく教育を行っている状況を聞き、 教官、 学生・生徒の両者にとって大変な負担になっていることは容易に推察できる。 練習船での訓練と学校での教育の仕分けをより明確に行うことにより、 両者によるより効果的な教育訓練の実施を検討する必要性を感じた。
(略)
 4級海技士の航海・機関両方の資格取得と即戦力を求めることに疑問を強く感じた。 いずれか一方の資格取得に的を絞ることができれば、 学校での教育と練習船での訓練をより一層効果的に行うことができるのではないかと考えることが多かった。
 なお、 訓練の実施がカリキュラムに縛られ過ぎているように感じることもあったので、 上記両立の難しさと教官側の苦労を理解しつつ、 より一層柔軟に日々の訓練が行われるよう期待したい。

〇挨拶・服装
 訓練最終段階にある専修科実習生に対する訓練から始めた今回の調査において、 実習生の積極性や自主性に問題があることはしばしば述べたが、 船内生活の基本的なこと、 例えば時間の厳守、 挨拶の徹底、 服装等について良く教育されており、 一人一人が明るく、 礼儀正しかった。 一般の若者と比較して実習生の頼もしさを感じたところである。
 調査期間が進むにつれて、 単に朝夕の挨拶に限らず、 何時いかなる場所でも親しみを込めて挨拶する態度に、 これなら就職しても先輩にかわいがってもらえるであろうと彼らの将来を楽しみにしている。

○調査の終わりに思うこと
 訓練期間を通じて実習生がどのように知識を吸収し、 技能を身に付けていくか、 その効果をどのように高めていくか、 教官側は日々検討を続け毎日の訓練に反映させている。
 その努力を実習生が理解できず、 注意を受けても改めようとしない場面を見掛けたとき、 憤りを感じることもあった。 最終的には実習生各個人の 「ヤル気」 に懸かっていると思うが、 訓練を如何に効果的に行うか日々の努力工夫を今後ともお願いしたい。
(略)
 短期間の調査ではあつたが、 実習生と生活を共にし、 時には内航船員の先輩として彼らに厳しく注意をあたえ、 先輩・後輩としての会話をしながら彼らの日々の成長を見てきた結果、 教官と同様に最終段階の彼らを見届けてみたいと思い始め、 その気持ちを抑えることが難しかった。

<以上、 紙面の都合を考慮した上、 調査報告書から抜粋して掲載させて頂いた。>