水先人の目から見た外国人船員事情                 
                            
                                           末田 亮介
                                         (広島 N60期・鹿島水先区水先人)

 日本船舶、 あるいは日本の港湾から日本船員の姿を見かけなくなってから久しい。 いくら国際競争力を強化して、 最終的生残りを計るためであったとはいえ、 その当時、 陸上勤務して人切りの片棒を担いだ我が身として、 その責任の一端を感じざるを得ない。 我々が日々、 取扱う船舶のうち約90%の船員が外国人であり、 その会話のほぼ100%が英語でなければならないという現状を考えると、 複雑な気持をぬぐい去ることができない。
 しかし本稿は、 そのような感傷に浸ることが目的でなく、 水先区での現状を多少の脚色をおりまぜながら、 独断と偏見に基づいて報告させて頂く。 内容については、 まず、 アジア船員事情、 それらの混乗、 ヨーロッパ船員事情とアジア船員との混乗に分類し、 国籍、 船種、 船型との関係、 問題点、 エピソード等を記す。

アジア船員事情
・組合せ 
  船・機長、 一・二航士     インド人
  その他              フィリッピン人
  合計船員数           20数人
・船籍                パナマ又はホンコン
・船種・船型             5万総トン以上の鉱炭船
                    パナマックスバルカー
 混乗形態としては最近、 このスタイルが最も多く、 キーマンは韓国人からインド人に変わりつつある。 船体、 航海計器等のメンテナンスは優秀であるが、 主機の信頼性は他船とあまり変わりない。 入出港作業については、 以前日本人船員の教育を受けた者は、 動作に無駄が少なく、 彼等をみていて大変懐かしい思いがする。 インド人の厳格さをフィリッピン人がよく理解し、 船内のモラルも高い。 この組合せが最も良いのではないか。

・組合せ 
  船・機長、 一航士      韓国人
  その他             フィリッピン人
・船籍               パナマ、 リベリア
・船種・船型           5万総トン以上の鉱炭船
                  5万総トン以下の原油タンカー又は、 ケミカルタンカーLPGタンカー
 危険物積載船には (VLCCを除く) インド人船長はほとんど存在しない。 日本人船長から教育を受けた韓国人船長が、 そのまま現在に至るまで引き継いでいる。 特に危険物積載船のフィリッピン人船員はマンニング会社にて厳選されているせいか、 気合が入っており、 自信ありげに見える。 最近の韓国人船長には穏やかな人が多くなったが、 以前は、 昔の悪い日本人船長の真似をして、 威張り散らかしフィリッピン人船員と揉め事が多かったようだ。 今に至るも、 フィリッピン人達は日本人船長との出逢いを非常に懐かしがっている。 危険物積載船での混乗では、 かつての日本人とフィリッピン人の混乗と比べても、 あまり変わりないと思う。
 その他、 バルカーに乗り組むこの組合せの混乗は、 入出港作業とも問題が多く、 これは、 韓国人船長の能力と、 その指導力の低さに起因するものと思われる。 また、 船内における船員のケガ、 病気が多いと聞く。 最近、 フィリッピン人にとって代ってミャンマー人、 ベトナム人と韓国人の組合せが増えている。

・組合せ 
  船長以下全員        中国人 (本土)
・船籍               パナマ、 中国、 ホンコン
・船種・船型           パナマックスバルカー
                  原油タンカー (2〜3万トン)
                  1万トン以下のコンテナー船
 最近、 本土中国人乗組の船舶が急激に増加している。 その勢いたるや、 まるで日本征服を謀る宇宙人の如くである。 中国船というと昔、 紅旗一号、 紅旗二号等の貨物船が横浜港内のブイに係留し、 隣に係留して荷役中の台湾船と船外スピーカーで、 ガーガーやり合っていたことを思い出すが、 今では台湾人の船・機長に本土出身者が部員という組合せまである。 中国船員には船乗り適性という点でフィリッピン人船員と比べて、 かなり低い点数をつけざるを得ない。 船内での服装ひとつとって見ても、 殆どの人が革履きでパタパタやっており、 全然気合が入っていない。 入出港時の作業時間も長く、 船体の整備、 主機を含め機器類への信頼度が低い。
 このように中国人船員が増えた原因は、 急激な貿易の拡大を自国船と自国船員で、 まかなうという国策であろうが、 最近中国人の船・機長等キーマン5〜6名に他はミャンマー人、 ベトナム人という組合せまで現れた。 これは、 もはや中国人部員ではコストに合わないため、 更に安いミャンマー、 ベトナムの人を使用するということであろうか。 皮肉なことにミャンマー、 ベトナム人は中国人よりはるかに船員適性が高く、 勤勉であると感じる。
 今後フィリッピン人乗組員に代わって、 ミャンマー、 ベトナム船員の割合が世界的に増えてくるのではないかと思われる。
 特殊な例として、 北朝鮮の船をあげると、 他国との混乗は皆無であり、 2〜3,000千トンの貨物船がほとんどを占める。 レーダーなし、 ジャイロコンパスなし、 アンカーチエンは3〜5シャックルしかなく、 係船索はひどい船になると1本の長さが4〜50メートルで全部で6本もあったら良いほうだ。
 ある時パイロットオーダーによりアンカーポジション (南防波堤灯台より045度、 3マイル) に赴いたところ船の姿、 形が見当らず、 更にはるか水平線上を豆つぶのような該船を発見した。 乗船後、 驚いたことにレーダーはおろかジャイロコンパスさえない。 船長にアンカーポジションをどの様な方法で決めたのか聞くと 『・・・・・』 であった。 その後係留作業の困難さ、 ご想像下さい。 日本での揚荷はワラ (競馬厩舎で使用するらしい。 その他の貨物は見たことがない)。 積荷はスクラップ同然の自転車を倉内に、 甲板上にはタイヤが擦り減り、 凹損の目立つ乗用車、 あきらかにセコハンと見られる冷蔵庫が山と積まれ、 航海中一波くらったら船もろとも海の藻屑となるのではないかと人ごとながら心配になる。
 まあ、 とにかくこの国の船はお話にならない。 出港時私は必要もないのにパイロットボートと交信し (5分毎に) もし下船地点附近で降りてこなかった時、 又は交信が10分以上途切れた時にはしかるべき機関に連絡するよう打合せてある。

ヨーロッパ船員とアジア船員との混乗
・船機長       ギリシャ人
・その他       フィリッピン人
・船籍        ギリシャ、 キプロス、 パナマ、 リベリア
・船種・船型     パナマックスバルカー
 この組合せにおけるフィリッピン人乗組員の特徴は、 動作が緩慢で、 顔にフィリッピン人らしい人なつっこさが見られず、 給料分しか働かないぞ、 という意思がありありと表れている。 これはギリシャ人船長による高圧的態度に対する、 彼等独特のサボタージュの一種ではないかと推測している。

・船・機長、 一航士    クロアチア人
・その他           フィリッピン人
・船籍            パナマ、 リベリア、 キプロス
・船種・船型        パナマックスバルカー
 ヨーロッパではこの組合せが以前から多いようだが、 近年日本近海でも増加している。 但し、 クロアチア人、 ウクライナ人等の技術的評価となると、 やはり彼等の人件費分 (安い) 程度であり、 フィリッピン船員達も、 その点よく見抜いているようで、 そこそこに付き合っているようだ。
 以上、 思い付くまゝに、 自分なりの評価をして来たが、 ごく稀に、 日本人船長の顔を拝見すると、 もう、 それだけで仕事が半分終わったような気がする。 やはり危険物積載船の中でも、 VLCC、 大型のLPG船等では、 日本人、 韓国人又はヨーロッパ人 (ノルウェー、 オランダ) に限られているようだ。
 どのような人種間の組合せにせよ、 上層部がいばりちらし、 部員達がビクビクしているような船舶に於いてはあまりうまくいっている船は少ないようで、 部員達をうまく取込んでのびのび働かせている船では乗組員のケガも少なく入出港作業も気持が良い程早い。 特に、 昔、 日本人船員からOJTとして技術を学び、 それを先輩から引き継いで来たフィリッピン人船員達を、 うまく使いこなしている船こそ、 事故率も低く、 運航能率を上げているのではないか。
 そうしてみると、 ノスタルジックではあるが今日に至るも、 やはり日本人船員の優秀さは世界一であり、 また、 それは廃れることなく、 たとえ日本人船員のほとんどが世界の海から消え去ることがあろうとも、 そのシーマンシップと技術を受け継いだ者達によって、 永遠に引き継がれて行くのではないか。