練習船「弓削丸」の活動状況について

   



弓削商船高等専門学校

練習船 弓削丸 機関長 

松下 邦幸





1.弓削丸(V世)の主要目

 平成6年3月30日、三井造船玉野艦船工場でコンピュータ技術の最先端設備を搭載した「弓削丸(V世)」が建造され、現在にいたっている。弓削丸(V世)の主要目は次の通りである。

総トン数  240 トン
全 長  40.00 m
垂線間長  35.00 m
  8.00 m
深さ   3.30 m
満載喫水(夏季)   2.80 m
資 格  近海区域非国際
主機出力  1300ps×750rpm
速 力  最大 13.75 knot
 常用 12.7 knot
最大搭載人員  56名(学生44名)

1−1 弓削丸V世について

 校内練習船『弓削丸V世240総トン』は平成3年(1991年)6月に練習船代船建造準備委員会が組織され、基本仕様及び研究実験設備を含む搭載機器等についての検討がなされた。平成5年(1993年)1月、この委員会はこれまでの準備を反映しつつ練習船代船建造委員会へと発展し、更に具体的な建造仕様の検討が行われた。

 平成5年度の補正予算において練習船弓削丸V世の代船建造が認められたので、それまでの校内の検討実績をもとに、基本的な代船建造実施計画が立案され、建造仕様が作成された。平成5年7月23日には株式会社三井造船玉野事業所との間に建造契約を締結した。その後、詳細設計に渡っての検討、打合わせなど、建造のための準備作業が進められ、同年10月13日に三井造船(株)玉野事業所で起工式が行われた。

 引き続いて、船台での船殼搭載工事と艤装工事も順調に進められた。平成6年1月18日に進水式が挙行され、進水後の艤装工事も順調に進み、海上公試において船体、機関及び各種機器の性能が確認され、同年3月30日本校実習船係留場において引渡しを受けた。この弓削丸V世は、その船体が240トン(新トン数)と幾分小さいながらも次のような特徴を備えている。

@高精度な測位システムと組合わせた省エネルギー、安全航行並びに操船の合理化を目的とした航行管理支援システムを採用している。

A航海情報、船体運動情報、機関運転情報など運転諸元に関する全ての情報を収集し、また舵取機、CPP、スラスターのコンピューター制御が可能なデータ処理システムを採用している。

B船内の受画装置の映像を編集管理し、船内学生教室のスクリーンに表示可能な映像音響処理システムを採用している。

CCPPの採用に加えて、バウ・スタンスラスタの組合わせにより良好な操縦性能を有している。(ジョイスティックによるシステム操船)

D機関室内の全ての機器に防振対策を施し、振動・騒音に配慮した。機関制御での騒音は全速航海中65dB程度である。

Eサイリスタインバータ式の軸発電機を有し、発電システムにおける省燃費省力化を図っている。

F女子学生の専用居住スペースを確保している。(居室及びトイレ・シャワー室など)

 引渡し後、乗組員の運転操作習熟のための数日間の習熟訓練航海を終えて、平成6年度の学事予定に従って弓削丸運航が始まった。主なものを挙げると学生の「学校行事の運航・航海実習・実験実習・卒業研究・共同研究その他」の航海等である。学校桟橋の停泊時間を除いた実質的運航時間は下表のとおりである。就航後3か年の運航時間数が多いのは、習熟航海やお披露目航海が多く、また国際交流航海や、各種イベント航海に多く対応しているためである。


  表1 実質的運航時間

平成6年度

平成7年度

平成8年度 平成9年度 平成10年度
1414時間 1559時間 1507時間 1287時間 1268時間

2.平成14年度 弓削丸 運航予定表

4月23/24  I2  航海実習 5月14〜16  S4E 航海実習
  18     広船  定期戦
  21〜23  S4N 航海実習
  31〜6月2     高校総体

6月3       S3 実験
  4〜6     I4 航海実習
  12/13   S5 航海実習
   14〜17      研究航海(1)
  22(土)      体験航海
  24      S3 実験

7月  8     S3 実験
   10/11  M1  航海実習
   13〜15(土・日・月)全国商船高専漕艇大会(大島)
8月 1〜5       研究航海(2)
     10/11(土・日)海洋体験講座
     24/25(土・日)洋上講座
9月 7(土)      体験航海
   25         研究航海(3)
    26         研究航海(3)

10月8〜10  M3  航海実習
   11    S4E 実験
     22〜24 S3A 航海実習
   25    S4E 実験
   27(日)     学校見学会
     29〜31 S3B 航海実習

11月 1    S4N 実験
     8    S4N 実験
    12〜14 S4N  航海実習
    16/17(土・日) 商船祭
    19〜21 S4E  航海実習
12月11/12 S2A 航海実習
     14/15(土・日)研究航海(4)
     18/19 S2B 航海実習
1月15/16  S1  航海実習
   22/23      研究航海(5)
2月3〜17       入渠(定期検査) 3月12/13      研究航海(6)
  16(日)      体験航海

3.校内における練習船の有効活用

3−1 本校練習船弓削丸の利用状況について

商船学科学生の航海実習(5単位)のみならず、情報工学科(2・4年生)の工場見学航海(必修2単位)および電子機械工学科(1・3年生)の工場見学航海などがある。また、各学科とも卒業研究のテーマとして海洋観測および船舶の運航システム開発など船舶を使用した研究が盛んに行われている。

3−2 他の大学・研究機関との共同研究航海について

 これまで、共同研究航海のために研究者が弓削丸に乗船して実験・データ観測を行った大学及び研究機関は、神戸商船大学・京都大学・大阪大学・岡山大学・広島大学・愛媛大学・国土交通省海上技術安全研究所などである。年間約6航海程度実施されている。

3−3 弓削丸の洋上公開講座について

 毎年夏期休業中に、1泊2日の日程で瀬戸内海史を主なテーマとした洋上講座が実施されている。聴講生は約20名前後の参加者を広く一般から募集しているが、リピーターが多く、その人気はかなり大きい。講師は、外部講師1名と本校内講師2〜3名で構成されている。

3−4 学校行事等イベント航海について

 広く一般に弓削商船高専と弓削丸の実態をPRするために、学校見学会、海洋体験講座、体験航海など運航計画表の隙間に適宜挿入して運航している。

4.弓削丸V世の過去の特記すべき航海

4−1 阪神淡路震災被災地航海について

最近の弓削丸運航において、特筆すべきは、阪神淡路震災被災地救援航海(二回)と、韓国釜山影島区にある韓国海洋大学校を校内練習船で訪問した国際航海(二回)である。救援航海は文部省からの指示(事務通達)で実施された。第一次航海は、平成7年124日〜25日、このときは被災直後でもあり、具体的にどの様な救援・支援活動をするのか明確な指示はなく、とりあえず学校関係者および弓削町内にも呼びかけて救援物資(主にトイレットペーパー・4〜5リットルポリタンクに入った飲料水などを収集した。24日早朝弓削島を出港して夕刻被災後1週間経過している神戸港第2突堤に接岸、わずかばかりの救援物資を陸揚げしてすぐに離岸、その後神戸商船大学深江沖まで回航し、錨を入れた。翌日早朝代表者3名が弓削丸搭載の『交通艇ゆげ』で商船大学ポンド内の岸壁に接岸、上陸して野戦病院さながらの臨時の商船大学災害対策本部に挨拶と、黒澤校長からのお見舞いとその辛苦をねぎらい同日帰港した。なお陸揚げ予定の清水40トンは陸上の受け入れ設備が無く、給水を断念した。

 第二次救援航海は、広島大学・岡山大学の医学部を中心としたボランティアティーム(教官および学生)の要請で、すでに震災直後から被災地に急行して救援活動に従事していた広島大学の実習船豊潮丸(320トン)とそれにつづく広島商船高等専門学校の広島丸(330トン)の交代船として、1月31日未明に弓削商船高専桟橋発、同日夕刻神戸商船大学岸壁外側に接岸した。今回は広島大・岡山大の若手インターンや看護士などの活動家たちの後方支援(具体的には休息および給食など)であった。また、このときは、弓削丸の1部乗組員(有志)が商船大学の災害復旧活動(実験室や研究室の整理など)を自主的に応援した。その後大島商船高専の大島丸に任務を引き継ぐ形で、2月4日本船の役目を終えて帰港した。

4−2 国際交流航海について

 ここで第一次及び第二次と2回にわたっての国際交流航海について大略を述べることとする。第一次は、平成7年7月25日から8月の1日までの8日間の予定で“弓削丸”で韓国釜山市にある韓国海洋大学校を親善訪問した。航空機やカーフェリーなど一般の交通機関を利用して渡航するのと違って、入出国や税関などのすべての手続きを本校側で行う必要があるためかなりの労力を要することになった。参加したのは、黒澤校長をはじめとして教職員20名、“弓削丸”乗組員9名、特別参加の学生11名の計40名であった。主な行事は、@表敬訪問 A学生交流会 B学術交流会 C大学及びコンテナーヤードの見学 D慶州の史跡見学その他であった。

第二次の国際交流航海は本校創基100周年記念事業の一環として平成13年4月30日〜5月5日(6日間)、本校として第二回目の韓国海洋大学を親善訪問した。今回は森田校長を団長として、教職員12名、学生20名(2年〜5年生)乗組員14名の総勢46名であった。今回の主な行事は、@大学校総長接見 A学生交流(ソフトバレーボール・女子学生によるお茶会・囲碁会・自作ロボット実演・プログラミング実演・学校紹介等展示)B大学内諸施設(資料館・シミュレータセンター・学生寮など)見学 C慶州歴史研修であった。

5.その他、まとめにかえて

 平成103月には第1回目の定期検査を受検し、過去5年間の運航で乗組員や実習生から弓削丸の設備に対する不具合や、実際に運航していくなかで教育効果についての問題点の指摘など今後の修理や改造点などが必要であることが明白になってきた。

 平成10年度末に校内練習船『弓削丸』の過去5年間の運航実績を集計調査した。それによると5年間の総運航時間は7035時間、航海した対置距離(OG)23904mileとなる。その間に実習生として教育訓練を受けた延べ人数は3632人(電子機械工学科及び情報工学科の学生も含む)にのぼり、練習船としての運航業務を十分に果たしてきているといえる。しかし、その一方では就航当時から言われていたように、近海区域240総トン(40m×8)という船体は教育・訓練・研究・一般公開・PR・その他イベントなどを行うには狭すぎる感があり、乗組員は船長も含めて個室ではなくすべて2人部屋(2段ベット)となっており、学生居住区は67人部屋でさらに水面下のため採光用の窓もない。燃料貯蔵タンクも小さく航続距離は僅か2300sea-mileであり、また造水(海水蒸留)設備も無くて約40トン弱の保有水量だけで、定員56名ではいくら節水しても5〜6日の航海が限度となっている。通常航海用の予備品や消耗品等の格納倉庫や、応急修理用の機関部の工作室もなく、また食料保管の倉庫や冷凍冷蔵庫のスペースも限られている。

 以上の欠点(ハードウエア)を学生達の協力や乗組員の創意と工夫(ソフトウエア)で補完しながら国際的にも開かれた船員教育養成機関として確固たる地位を占めていく努力を全教職員が一丸となって邁進させていくことが最も重要な要件である。