可変ピッチプロペラによる
        安全航行と省エネルギー


                          栗林物流システム株式会社
                          専務取締役  松坂 武彦
                                 (富山E18)

1. はじめに
 近年、 環境問題が大きくクローズアップされていることや、 原油価格の高騰が続いていることから、 あらゆる分野で省エネルギー (以下、 省エネと呼ぶ。) に関心が高まっている。 船舶の分野でも省エネヘの取り組みが盛んであり、 いろいろな省エネ装置が関心を集めている。 一方で、 既存の装置でも省エネ効果が再認識され、 注目を集めているものもあり、 そのひとつに可変ピッチプロペラ (Controllable Pitch Propeller 以下 CPP と呼ぶ) がある。
 CPP が実用化されたのは50年以上も前のことであり、 その後、 種々改良がなされ、 現在ではあらゆる船舶に装備される様になった。
 また、 制御方法も自動化され、 近代化に大きく貢献してきた。
 その CPP による安全航行と省エネに関する効果について紹介する。

2. CPP の特徴
 CPP は、 翼角 (ピッチ) を制御することで常に機関の出し得る出力を吸収することができ、 あらゆる船種でその能力を十分に発揮することができる。
 実際に CPP を装備した場合、 以下の様な利点がある。

(1) すべての船種で共通な利点
 @主機関を常に一定方向かつ一定回転で使用できる。 (運転制御が容易)
 A前後進、 停止、 超微速運転が自由にできる。 (優れた操船性能)
 B停止距離が短い。 (高い安全性)
 C自動化がしやすい。 (経済性の向上)
 D主機関動力利用システム構成が容易にできる。 (省エネ効果が大きい)

(2) RORO 船やフェリーなどでの利点
 離着岸が多く、 前後進や停止などを頻繁に行うため、 CPP の優れた操船性能が有効に活用できる。
 また、 シャトルサービスを行う短距離両頭船などでは、 翼角 (ピッチ) を水流とほぼ平行にすることができるフェザーリング型 CPP を採用することによりプロペラの低抗を減少させることができる。
フェザーリング型 CPP:
 ピッチを水の流れとほぼ平行にすることにより、 プロペラの低抗を大幅に減少させることができる機能を持った CPP のこと。

3. 船舶の安全航行
(1) 狭水路、 港内の微速航行
 図1に示すように、 CPP は翼角を制御するだけで、 前進全速から後進全速までの全範囲で任意の船速を無段階に得ることができる。
     
 一方、 固定ピッチプロペラ (Fixed Pitch Propeller 以下 FPP と呼ぶ) は図2に示すように、 連続して出せる船速が限られてしまい、 特に大出力主機関の船舶では微速での連続運転が出来ない。
 このように微速を含む船速の制御が簡単にできる CPP は、 FPP に比べ操船性能が格段に高く、 安全性も高くなる。

(2) 停止性能
 船体の急速停止は、 CPP では、 回転数をそのままで、 翼角 (ピッチ) を前進から後進 (あるいはその逆) に制御するだけで可能なため、 短時間かつ短距離で船体を停止させることができる。 それに対し、 FPP ではクラッチ制御または機関を逆転してプロペラを反転する必要があり、 煩雑な操作が必要となる。 図3に示すようにこの停止距離は、 FPP と比較すると約半分になるといわれている。 急速停止が短距離でできることにより、 狭水路や船舶の多い港内での衝突防止、 緊急時の船体停止が容易に行われ、 安全性が大幅に向上する。

4. 主機関の負荷状況
 通常、 FPP の設計は、 船体の汚れや気象・海象状況による抵抗増加を考慮して、 主機関定格出力に対して20%〜30%程度のシーマージンを付けて計画されている。 これは、 運航中に主機関の負荷が舶用特性 (最適な負荷状態で燃費効率も良いとされている運転状態) を超えることがないように余裕を持たせるためである。
 また、 FPP の場合、 主機関の負荷状況の変化に合わせて回転数を調整する必要があり、 制御は煩雑になる。
 これに対し、 CPP は、 翼角 (ピッチ) を増減させ、 主機関の負荷を調整することができるため、 シーマージンを考慮して設計する必要がなく、 その航海状態や海象状況にあわせて、 翼角 (ピッチ) を調整することにより、 最適な運転が容易にできる。

5. CPP の省エネ効果
(1) 負荷一定
 前述したように FPP ではプロペラの計画段階から主機関出力に対し余裕を持たせているため、 効率が一番良いとされている舶用特性ラインの下側を使うことになるが、 CPP ではあらゆる運転状態において舶用特性ライン近くを使用することができる。
 図4に主機出力と回転数の関係の一例を示す。 CPP は同一出力では回転数を下げることができ、 その分だけプロペラの効率が上がり、 結果として燃料を削減することができる。 この燃料費の削減効果は約1〜2%程度と言われている。
(2) 速力一定
 図5に示す航走推定曲線から、 同一速力で比較した場合、 翼角 (ピッチ) を上げることができる CPP は回転数を下げることにより、 FPP と比較し出力を約2%減少させることができる。

6. CPP の省エネ効果を高める制御
(1) 自動負荷制御装置 ALC
 図6は一般的な主機関の運転領域を示したものであるが、 舶用特性曲線を上限とした斜線部で示す領域が経済運転領域である。 実際の運転では、 負荷状況が刻々と変化する場合は、 操船者が手動操作で翼角 (ピッチ) や回転数を個別に制御して、 常に経済運転領域を保つためには煩雑さが免れない。
 この煩雑な制御を簡単にできるように自動負荷制御装置 ALC (Automatic Load Control) がある。 ALC は、 設定された回転数に対して負荷が一定になるように翼角を自動的に制御するもので、 主機関は常に一定負荷で運転することが可能になる。 すなわち、 主機関の出力と燃料消費率特性をもとに設定した出力と回転数の関係 (目標負荷設定ライン) になるよう、 翼角を自動的に調整して運転するシステムのことである。
 FPP の場合は海象によっては主機関がオーバートルクの状態になることがあるが、 ALC 装備の CPP では外乱に応じてロードの設定を的確にすることにより、 主機関出力を有効に無理なく使うことが出来るので、 燃料消費量を減らすことが出来、 省エネに役立っている。

図7−1は、 CPP を ALC 制御で使用している
         実船の例             

 ALC のロード設定を適切に行なえば、 舶用特性曲線のほぼ100%運転が出来、 効率良い運転が出来る。 それに対して FPP ではプロペラにマージンを持たせている関係上、 7−2図の様に舶用特性曲線82%〜90%で運転することになる。 主機関出力の有効活用とは言い難い。



図7−2は実船での FPP プロペラの運転

 また、 ALC を装備することにより、 負荷変動が少なくなるので、 主機関のメンテナスも軽減される。



(2) 自動船速制御 ASC
 船舶は運航管理によって航海が計画される。 出港地から目的地までの距離、 待ち時間、 荷役時間、 気象状況、 潮流等さまざまな要素により船舶の運航は計画されている。 この一連の運航を経済的に、 効率よく行う方法として、 船速を自動的に制御する自動船速制御 ASC (Automatic Speed Contro1) 装置がある。
 これは設定した船速に対して、 船速が変化した場合、
・回転数を一定として翼角を制御する
・翼角を一定として回転数を制御する
・翼角と回転数を同時に制御する
の方法で自動的に船速を一定にするシステムである。
 ASC を装備することにより、 目的地までの距離、 待ち時間、 荷役時間、 気象状況などを考慮し、 その船舶の経済船速内で、 航海条件に合せた航海船速を設定することで燃料消費を抑えることができる。 その効果は船種や主機関等の条件によって差はあるが、 仮に15〜17ノットの船速を0.5ノット程度下げて航海が可能であるなら、 航海時間は若干長くなるが、 10%以上の燃料消費を削減することが可能になる。
 船の運航は経済速力域内で船速制御を行うのが燃費削減につながる。 そこで、 ASC と ALC を組み合わせることで、 回転数と翼角を最適な状態に組み合わせることができることから、 常に経済運航領域を保持しながら船速を維持することができ、 省エネ効果が期待できる。

7. 主機関動力利用システムによる省エネ
(1) 発電機の主機関駆動
 一般的な船舶の機関室内の動力システムは、 主機関1台と発電機関2〜3台からなり、 推進には固定ピッチプロペラまたは可変ピッチプロペラを主機関で駆動し、 船内の各種動力、 各種の電気機器、 照明等は発電機関で発電した電力を利用している。
 主機関としては中低速機関が、 発電機関としては中高速機関が使われているが、 一般的には主機関の燃料消費率は、 発電用機関の燃料消費率に比較すると10%以上良いと言える。
 この特性を利用して、 CPP を装備して主機関で発電機を駆動することにより・省エネを図る主機関動力利用システムが実用化され、 大きな効果を得ている。
 例を次に示す

(2)使用の例

 主機関動力利用システムの例を図8に示す。 この例は、 当社の北海道航路の RO-RO 船
(12,000GT/6,800DWT、 主機関21,600ps) で実用されているものである。
 推進装置は ALC 装備の可変ピッチプロペラを採用している。
 ALC を使用の場合、 主機関の回転数変動が少なくなるので、 主機関駆動の発電機 (軸発) との組合せが大変有効である。 この例では、 航走時は、 主機関回転数を400rpm 前後 (プロペラ回転数150rpm 前後) で運転されるので軸発は推進用減速歯車装置につけられた増速装置で3倍に増速されスリッピングクラッチ付 PTO を介して1200rpm で駆動し450V、 60Hz で船内電力 (平均550kW) をまかなっている。 港内では、 微速航走を可能とするためとプロペラのフェイスキャビテーションの防止のため、 主機関回転数は280rpm (プロペラ回転数105rpm 前後) に回転数を下げて使用するので、 発電機は直結 PTO で375V、 50Hz、 1000kW のスターンスラスタ専用とするシステムとしている。
 この時バウスラスタ電力と船内電力は、 2台の発電機関でまかなうが、 このシステムにより、 発電用機関の容量を大幅に節減することができるので、 総合的に省エネと経済性向上が得られる。
 実施例を図8に示す。 典型的な主機関動力利用システムの例を図9に示す。

8. スラスタやフラップラダーとの組合せによる省エネ
 CPP とサイドスラスタやフラップラダーを組み合わせることにより、 さらに優れた操船性能を発揮することができる。
 当社 RORO 船の例では、 CPP と前後2基のサイドスラスタをジョイスティックシステムで制御しており、 離着岸時には、 強風の時以外には曳船の支援なしで、 船長1名で操船しており、 年間平均で97%は曳船の支援なしで離着岸をしている。
 1航海で7港の入出港14回の離着岸、 年間50航海で700回の離着岸があるので、 結果として曳船使用料の節減 (曳船使用料を1回20万円として、 年間では13,500万円強の経費節減) という経済的効果だけでなく、 曳船を使わない場合、 曳船自体の燃料油消費も削減されることになり、 総合的に大きな省エネになっている。
 また、 フラップラダーの採用により、 主板が35度の時フラップは90度横向きとなって、 ほぼ真横の推力を出すことが出来、 低速での舵性能を高めている、 また航走中はフラップの効果により微小な舵角制御で進路維持ができるので、 舵抵抗が低減されることになり、 これも省エネ効果が得られる。

9. まとめ
 実海域での船舶の運航は、 運航形態や運航海域によりその状況が時々刻々変化していることや機関の違いによる差異も大きく、 省エネ効果を数値で評価することは難しいところである。 しかし、 あらゆる状況下で常に最適な運航状態に対応できる CPP が省エネ効果を発揮することは明らかであり、 今後もその採用が増加するものと考えられる。
 CPP の採用により安全航行と省エネ効果を再認識する資料になれば幸いです。